Grand Prix Legends (Papyrus/Sierra)

グランプリレジェンド

RATE:ハードコア系オンロードレーシングゲームの最高峰。多分。
プレイ時間:ノービスのレースで中の下くらいの順位。

WinVROCでネット対戦をしよう。


 



脚色されない世界。

98年の発表当時、車の挙動が極めて優れたゲームだと聞き興味があったのだが、結局店頭で見たのは一度きりでそれ以来すっかり忘れてしまっていた。最近になってきまぐれで体験版をプレイしてみると、リアルな挙動が思った以上に面白く、一つのコースのタイムアタックだけではまりまくってしまった。このゲームは67年のF1レースという非常に特殊で、限定されたシチュエーションを扱っている。が、このゲームをプレイする人は、古き良き自動車レースに郷愁を寄せるより、むしろ優れたシミュレーションエンジンでリアルな操縦体験をしてみたい、という人が多いだろう。




地味だが完成度の高いコンポーネント。

搭乗できる車種は7種類。フェラーリ、ロータス、ブラバムはもちろん、ホンダに乗ることもできる。ただし、ホンダはライセンスが取れなかったせいか、ムラサマという架空の名前に置き換えられている (これは後述の JF Carset というスキン集で修正することができる)。コースは11種類。いまでは使われなくなったコースもある。めずらしいと感じるばかりでなく、現代のコースに比べて非常に危険なコースが多い。

ゲームプレイはトレーニング、シングルレース、ワールドチャンピオンシップ、マルチプレイヤーの4種類。レースは、ノービスクラスからグランプリクラスまで6種類のレベルが選択でき、それぞれ周回数やダメージモデルが異なる。ノービスクラスでは周回数は7から9、車体もダメージをあまり受けないようになっている。グランプリクラスでは現実と同じ100周近い周回数が要求され、ダメージモデルも最も厳しいリアリスティックになる。わずかな接触事故がセッティングのずれを生み、以降のレースが困難になるばかりか、命取りとなってしまう。

グラフィックスはごく普通で、98年当時を考えると地味かもしれない。GlideとDirectXに対応しているが、特に派手さはない。動作は軽く、今のマシンパワーだとディテールを最高にして車を最大の20台を登場させてもまったく重さを感じない。かっこいいオープニングムービーは用意されているのになぜか起動時に表示されない。メニュー画面には音楽もない。画像は良くできているのにちょっと拍子抜けだ。シミュレーションに対するこだわりやソフトの完成度の高さを考えると十分に許せるのだが、もう少し色をつけても罰は当たらなかっただろうと思う。

マニュアルは2冊。ソフトウェアの操作を説明したゲームガイドのほかに、走り方に対する考え方やセッティングの方法、各コースの説明などが詳細に記された100ページほどの "Four Wheel Drift" という冊子がついている。日本語のウェブサイトがいくつかあり、英文マニュアルを読まなくてもそこそこの情報は得られるが、やはりこういった元ネタの情報を自分で読むか否かで差がつくのかもしれない。

リプレイ機能が充実しているのも特長で、自分の走行をさまざまな角度から見て楽しめるだけでなく、他人やコンピュータ車の走行を見て研究することもできる。




うわさ通りのシミュレーションエンジン。

普通のゲームのつもりでアクセルを踏めば後輪は空回りし、ハンドルを切ればスピンしてしまう。初めての人は最初のコーナーを回れるようになるだけでも時間がかかるだろう。芝生を踏めばあっさりコースアウト、コースに戻ろうと加速すればまたぐるぐる回ってしまう。ふつうに加速、減速しようとしても、ハンドルが車の進行方向とずれていればまたスピン。アクセルベタ踏みなどとてもできない。ドライブゲームを良く知らない人がプレイすれば、なんだこのゲームはとイライラするばかりだろう。しかしこれが面白い。前進やコーナリングはもちろん、スピンをしてもクラッシュをしても、その挙動に嘘が寸分も感じられないのだ。すべて、本物をこう操作したらこうなるだろう、という結果が返ってくる。それはスピンやクラッシュだけでなく、コーナリングでグリップを失いそうになったときアクセルを断続的に入れるなど、高度な応用操作をも可能にしている。これが実に奥深い。練習を積んでさらに速く走れるようになっても、ここをもっとこうすれば・・・という考える余地がさらに出てくる。単に速く走れたから嬉しい、ではなく、自分で考えて自分で工夫した結果が出たときの喜びは大きい。

通常のドライブゲームでは、車を一つのベクトルとして扱い、前後左右方向の加速度に対してそれらしく動かしているにすぎない。このグランプリレジェンドのシミュレーションの特長は、立体の物体が、空間に物体として存在するように作られていることだ。車体、4つのタイヤ、エンジンなどがそれぞれ質量を与えられ、組合わさって動き、タイヤが地面に触れ、接触面の摩擦力から車が前進するといったようなプロセスが実感としてとらえることができる。タイヤの一つが芝生に乗り上げて接地面の摩擦係数が変われば、タイヤに与えられた加速度との差からグリップを失い、加速度の均衡か崩れてスピンしてしまう。加速や減速をせず、慣性を利用すればリカバリーできる。車が進んだ方向に段差があれば車体は宙を舞い、車体が障害物の上に乗ってタイヤが浮けば動けなくなってしまう。タイヤが障害物に当たればそのタイヤだけが外れて飛んでいってしまう。セッティングで車高を低く設定したとき、舗装路と路肩の段差が車の底面に接触し、動けなくなる。これは車を単なるベクトルとしてでなく、物体としてとらえていることを如実に表している例と言えるだろう。




詳細なセッティング項目。

最初、どうしてもまっすぐ走れなかったのでセッティングを確認してみると、トーイン角がマイナス(前が開いた状態)になっていた。これを調整してタイヤのつま先を閉じてみると、なるほど、安定してまっすぐ走れるようになった。何度か周回を重ねていると、どうしてもコンピュータ車のようにうまく減速できず、左右にぶれることに気がついた。減速時のぶれを少なくするためにトーイン角を開けるらしい。タイヤがより効率よく接地するためのキャンバー角は、それぞれのタイヤの、外側、中央、内側の温度を読んで調整する。例えば、タイヤの内側の温度が低ければ、その部分が効率よく接地していないということなので、キャンバー角を小さくするといった具合だ。タイヤの温度が変わってくればタイヤの圧力も変わってくる。当然、左右のタイヤに対する負荷も異なるので、左右のタイヤの圧力も違ってくるわけだ。そうするとまっすぐ走りにくくなり、加速や減速時にスピンしやすくなる。ある程度の周回数後、タイヤが暖まったのちにタイヤの温度が均等になるように、タイヤの空気圧を設定しなければならない。

そのほかに、車高、ホイールレート、ダンパー、ロールバーの固さ、ブレーキレートの配分、ギヤレシオ、デフレシオ、クラッチなどが調整できる。すべての調整を追い込むには、正しい理解だけでなく、長いレースの中での自分のペース配分も考える必要があるだろう。




速すぎる? コンピュータ車。

コンピュータ車のAIは上々。リプレイ機能で他車の動きを観察できるのだが、インチキらしいものはない。動きも素直だ。最初は速すぎる印象があったのだが、練習するにつれ、上位の敵と張り合えるくらいのタイムは出そうな感じだ。おそらく開発者らもそうとうプレイしたであろうバランスになっている。ただ、レース本番となると人間プレイヤーは疲労のためペースを落としたりミスをすることもあるが、コンピュータ車は常にベストコンディションで走っている印象がある。ミスも非常に少ないので、対戦相手としてはあまり嬉しくない。プレイヤーは一度ミスをするとほとんど取り返しがつかなくなってしまう。プレイそのものがハードなだけに、ミスをしたときの悔しさも大きい。ただ、10周以上のレースをまだやったことがないので、長いレースになると状況は変わってくるのかもしれない。




好き嫌いがはっきり分かれるハードコアシミュレーション。

このソフトが98年発売ということを考えると、いまはさらに優れたレーシングゲームが出ているのだと思うが、これが意外にないようだ。マイクロプローズの最新作、Grand Prix 4 でも、ドライビングエイドを全部切ってもアーケードライクな走り方をするのは驚いた。ハードコアシミュレーションは一般に受けないのかもしれないが、人気の高い現代F1ものならもっと幅広い製品が出ていてもいいと思った。現在、このグランプリレジェンドは廉価版が発売されており、20ドル以下で入手することができる。プレイはキーボードやジョイスティックでも可能だが、できればハンドルコントローラを用意したほうがいいだろう。ハンドルコントローラのほうが左右のストロークが大きく、より微細なコントロールができるからだ。アドオンデータも多数公開されており、コースや車種を追加することができる。中でも車の見栄えを大幅にアップグレードする JF Carset がお勧めだ。ゲームに登場する全車種がすべてひとまとめになっており、一つずつ集める手間がない。車の生の挙動が味わえるこのソフト、レースゲーが苦手でも車の好きな人にはぜひプレイしてほしい。



※かなり以前に書いたので、ゲーム内容に対する誤解、細部の間違いは容赦願いたい。




Papyrus Racing Games (体験版あり)
http://www.papy.com/

JF Carset
http://jfcarsets.m4driving.sm/indexv1.2.html

 

 

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