Panzer Elite (Wings Simulation / Psygnosis)

パンツァーエリート

RATE: ストレス多いわりに喜び少ない。






パンツァーエリートは1999年にシグノシス社より発売されたWWII戦車戦ゲームだ。アフリカ戦線、イタリア戦線(シシリー)、ノルマンディにおいて、ドイツ軍とアメリカ軍の戦いを再現する。搭乗可能車種は3号戦車、4号戦車、ティーガー、パンター、シャーマン、そのバリエーションで両軍合わせて23。登場車種となると全部で50以上、ヘッツァーやヤクトパンターなどその筋の人が聞けば喜びそうな名前が並んでいる。外観だけでなく内部もしっかりモデリングされ、車両ごとの違いが表現されている。車長、運転手、砲手、通信士、装填手の役割分担も表現され、それぞれの視界も用意されている。WWII戦車戦は、一人称シミュレーションというとなぜか数が少なく、このパンツァーエリートの他にはSSIのパンツァーコマンダーにまで遡らねばならない。戦車マニアにとっては物足りない思いをしてきたが、このパンツァーエリートはこのジャンルにおける決定打となる製品である。


視覚表現など

グラフィックスは突出してすばらしいというわけではないが、十分にリアリティを感じられる。木や建物等の表現は従来のポリゴンゲーム的で特に工夫はないが、人間に近い視点で見る町や村は臨場感がある。地形の細かい凹凸も描画され、それに合わせて動くキャタピラ、走行時の揺れ、きしみ音などがよく表現されている。特に、砲手のスコープから見る映像は、幾重にも折り重なる丘、視界を遮る木々や建物、その中を見え隠れする敵戦車など、非常にリアルに感じられる。言葉で説明するより実際見ていただいた方が早いだろう。開発メーカーのスクリーンショット) 距離の遠い山などは四角いポリゴンとミスマッチなテクスチャが目立ってしまうのは残念だ。

タイトル画面や両軍のブリーフィング画面などの2Dメニュー画面も、丁寧にモデリングされたグラフィックスだ。音声も豊富で、ミッションブリーフィングや戦闘中などよくしゃべる。音声は英語とドイツ語を選べるのだが、面白いのはドイツ語訛りの英語も用意されていることだ。激しい戦闘とは対照的な控えめの音楽もよい。センスもよく、マイナータイトルによく見られる手抜き的なところは一切ない。


よく練られたプレイアビリティ

画面を見て気づくのが、マウスタンクと呼ばれる左上の白い線画だ。これをクリックすることにより、移動、射撃、視界切り替え、味方への命令などがマウス一つで行える。移動や射撃などはこれでやるのは実用的ではないが、キー操作を覚える手間が軽減される。プレイ画面に出ている敵や味方、地形をクリックし、選択や指示をすることもできる。例えば、味方戦車をクリックし、続いて敵戦車をクリックすると攻撃命令となり、味方戦車をクリックし、地形をクリックすると、その地点への移動命令となる。このように直感的な操作ができるように工夫されている。その反面、キーアサインはクセがあり、CtrlやAlt同時押しが多く、いまひとつ整理されていない。キーアサインはオプションで変更が可能。マウスタンクと併用すれば結果的にそれほど気にならなくなる。難易度オプションは豊富で、かなり柔軟に設定できる。三人称視点でマウスを使い、アクションゲームのようにプレイすることもできる。


プレイヤーの操作

プレイヤーは基本的に車長視点でプレイを進めることになる。この視点はもっとも視界が広く、マウスで指示もできる。いったん戦闘が始まるとハッチを閉め、キューポラの極端に狭い視界から状況を判断せねばならない。車長の他に、運転手、砲手、同軸機銃、車体機銃を操作することができる。運転手視界では、3Dでモデリングされた運転席にエンジン計器があり、マニュアルでギアシフトまでできる凝りようだ。だが実際はマニュアルシフトなんか使わないだろう。装填は操作できないが、視点はちゃんと用意されている。

照準システムはこのゲームの要となっているといってもよい。AI砲手に射撃を任せることもできるが、あまりうまくなく、状況によってはプレイヤーが行うことになるので、射撃の腕を上げることは重要だろう。ドイツ戦車のレティクルはシュトリヒ単位を再現している。シュトリヒとは、1mの物体が1000m離れたときに見える大きさのことである。レティクルの大きな三角は4シュトリヒ。小さな三角は2シュトリヒ。敵シャーマン戦車の正面の幅は約3mだ。ここから敵の距離を割り出す。どんなに難易度を落としても、親切なデジタル表示などは出ない。弾丸は放物線を描くので、このレティクルから敵の距離を読み取り、距離(砲の射撃角度)をセットしなければならない。おまけに、弾丸の種類によって右にドリフトしてしまうので一筋縄でいかない。射撃は実力の差がはっきり出る面白いシステムだ。なお、ドイツ軍戦車のみに照準のズーム表示があり、光学機器の優秀さを表現している。アメリカ軍戦車の照準には距離を読み取る機能はなく、レティクルもおおざっぱだ。

フィールドは非常に広く、多数の部隊が同時に戦っており、臨場感がある。多くのミッションではプレイヤーの小隊の他に随伴部隊が登場し、行動を共にする。この随伴部隊をうまく利用しないとクリアできないミッションもあるので、足並みをそろえることが重要だ。また、歩兵が登場するのもこのゲームの特長で、バズーカ、パンツァーファウストの部隊は戦車にとって脅威となる。


思うほど簡単にいかない実戦

ビジュアル的には非常に説得力があり、人気戦車が大量に登場するこのゲーム、パンツァーフォー! などと叫びながら突進していくと、またたくまに全滅してしまう。一発被弾すれば動けなくなり、主砲が壊れ、乗員が死ぬ。敵は何度命中させても死なず、自分は2,3発被弾しただけで、当たり所が悪ければ一発で死んでしまう。被弾箇所によってダメージが異なるのだが、どれも致命傷となりうるもので、事実上ゲームが進行できなくなることが多い。動きは遅すぎるので、先回りや回避どころではない。セオリー通り窪地を進み、どんなに素早く動いても、どんなに正確な射撃をしても、なぜか敵の方が上回っており、攻撃方法や後退など考える前にすぐ死んでしまう。お互い何発もの被弾に耐え、次はどうやって攻めようか、それとも後退すべきかを考えさせてくれるパンツァーコマンダーとは対照的だ。

このゲームでは戦車の動きが極端に遅いので、攻撃力や防御力を機動で補うことができない。従って接近戦は著しく不利になる。1000m以上の距離から精密射撃を行い、できるだけ数を減らし、接近してきた敵はやむなく近距離で撃破する。このような戦い方をすればある程度ミッションはこなせるようになる。敵との距離1000m前後で判断せねばならないので、プレイヤーは敵戦車との格闘術というより、戦闘全体の流れを読むことが大切だ。同様の理由で、不利な状況や敵と近接した状況においては回避する手段がほとんどなく、接近戦は運の要素が強い。死ぬときは納得のいかない死に方をすることが多いだろう。

非常に難しいゲームであるので、攻略は必然的に微細な部分にわたって研究することになる。しかし、この細かいところを見ていくとアラがたくさん出てきてしまうのが困りものだ。遠距離のビジュアルは精度が悪く、遠距離射撃において着弾点がわかりにくい。また、敵がポリゴンの地形に埋まっていたりする。煙や木々、稜線に視界が遮られているのに、AI砲手には見えており、射撃を命中させてしまう。そうかと思えば、今度はアサッテの方向に撃ち、わざとらしく無駄玉を消費する。隊列命令を守らない僚機。やたらもたつく視界切り替えは本当にいらいらする。照準や双眼鏡視点は頻繁に使うにもかかわらず、切り替えに数秒もかかる!! 敵の砲兵射撃は全速で回避しても命中することがあり、まったくの運で戦力を減らされてしまう。ミッションクリア条件を達成してもミッション終了にならない (時間の加速機能を使ってミッション終了のメッセージが出るまで待つ)。勝利条件に関係のある地名がマップに書かれていない・・・などなど、要素が複雑なゲームだけにストレスを強く感じることが多い。

このゲームは、ひたすらストイックに遠距離射撃に徹し、敵が減ったら前進、減らないようなら後退を繰り返し、アクション面での楽しみをぐっと我慢しなければならない。兵器の性能の差は如実に現れ、自分に与えられた戦車では敵戦車をまったく撃破できないこともある。機動での戦術は非常に選択肢が狭い。実際の戦い方がこのようなものであり、兵器の性能がリアルであったとしても、ゲームとしてはあまり面白く感じるとは言えないだろう。パンツァーコマンダーでは、敵がここにいるからこっちから射撃しようとか、敵がこう来たからこう回避しようとか、こっちに先回りして待ち伏せしてやろうとか、そういったゲーム的な部分が表現できていたので見た目がしょぼくても楽しくプレイすることができたが、パンツァーエリートではそのようなことは考えられていないようだ。このゲームを楽しむには、これらの点を承諾するかどうかにかかっているだろう。



スペシャルエディション

ツボを押さえた内容が戦車オタの心をとらえ、熱烈な支持を得たこのゲームは、販売終了後にも多くのアップデートやユーザーによる追加データがリリースされた。現在ではこれらの追加モジュールを収録した Panzer Elite Special Edition が JoWood より発売されている。この Special Edition では、イギリス軍でのキャンペーン、ロシアの車両、雪原や夜間戦闘などが楽しめる。また、旧版ユーザーにも随時最新パッチが公開され、2002年1月現在、Special Edition と同等のバージョン1.1SEがリリースされている。

開発元 Wings Simulation 公式サイト
http://www.wingssimulations.com/panzerelite.html

参考書籍
「ティーガー重戦車写真集」(大日本絵画) はおすすめ書籍の一つ。照準の読み方が非常に詳しく書かれている。大型書店なら入手は容易。
 




 

 

 

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