銀翼 GIN-YOKU 体験版 (AQUASYSTEM)

RATE: ユーザーよ、もっと怒れ!!
プレイ時間: 体験版30分(苦痛)






銀翼とはアクアシステム社の出している民間機フライトシミュレータ、ジェットストリームの最新バージョンであるが、シーナリに衛星写真テクスチャを使用、コクピットを3Dモデリングするなど視覚面で従来シリーズより大きく変革を図り、銀翼という新しい名称をつけたものである。この会社の製品はジェットストリームの項でも書いたように、企画意図不在、技術的に極めて低品質、さらに、希薄な内容の製品を「初心者向け」と位置付け、己の低能っぷりを正当化するなど、トータル的に開発力のなさが見られる。今回のこの銀翼もそのネーミングから、大幅なパワーアップをさせたつもりで威信をかけたつもりなのであろうが、アクアシステム社の例に漏れず、随所に考えの浅はかさが見られる極めて内容の希薄な製品であった。





発案がまったく生かされない企画不在の希薄な製品

この製品は少し使ってみただけでさまざまな違和感、使いにくさ、考えのなさを感じ取ることができるだろう。同種の飛行機ゲームをやったことがある者なら、体験版の時間制限の30分もしないうちに、評価に値しない製品であることに気づくであろう。

使いにくいだけの3Dコクピット

まず、大きな特徴の一つであるバーチャルコクピットであるが、これ一つだけで突込みどころ満載、どこから突っ込んでいいのかわからないありさまだ。まず、フルキーの1と2で視点を上下、3と4で左右である。もうこれだけでこのソフトの非合理性が露呈している。何が非合理的なのかはもう説明する気すら起こらない、実際に1234で上下左右とやってみるがよい。しかもこのキー以外でコクピット視点を変えることは絶対に不可能なのだ。バーチャルコクピット内のMFDに計器が表示され、リアルタイムに動作している。これは評価できる・・・が、これが見事に読めない。縮小して表示されることを考慮していないのだ。一応F11、F12キーで拡大、縮小表示ができる。よろしい、これを活用して飛んでみよう。正面の視界と計器を同時に表示して飛行するのは困難だ。パイロットが外を見たり計器を見たりするのに目を移動させるのと同様に、1,2,3,4キーで視点を移動させる。ふむ、ちょっとリアルかもしれない。そう、計器を見るときは目を凝らさねばならないので、同様にF11,F12キーで表示を拡大しよう。・・・・・・・こんな煩雑な操作などやってられるか!!! 彼らはフライトアンリミテッドのバーチャルコクピットがIJKLの逆T字またはテンキーで操作できることを知らないのだ。また、いくつかのコンバット系フライトシムで、マウスでバーチャルコクピットを動かせることすら知らないし、サブウィンドウにてMFDを大きく表示させることも知らない。そしてまた彼らは、1,2,3,4,F11,F12以外に合理的な動かし方も思いつかなかった。

まだある。3Dコックピットは実はMFDしか機能していない。左側の姿勢や速度を表示するプライマリMFDはなかなかリアルだが、右側のMFDはえんえんと架空のナビゲーションシステムを表示しつづけている。その他の計器、ボタン類はすべてダミーだ。どうせ操作できるようになっても3Dコクピットの使いにくさが露呈するだけだろう。

スペースでスティック中立?!

多くのフライトシミュレータがキーアサインに困窮し、キーボードによるピッチ、ロール、ヨーの操作を捨てているのに対し、この銀翼ではキーボードでの操縦も可能だ。この点は良心的だ。が、これがカーソルキーとスペースキーなのである。この脈絡のない2種類のキーはどう使うのか。カーソルキーはピッチとロールなのだが、スペースはなんとスティックの中立である。同じ操縦桿の動作をなぜ脈絡のないキーに割り当てるのだろうか。スティック中立のスペースはプログラム上やむをえないフィーチャーとして割り切ったに違いない。そう、彼らはMSFSのテンキーの2,4,6,8でピッチとロール、そしてテンキーの5でスティック中立という合理的かつ自然なキーアサインを知らないのか、あるいはこのキーアサインの合理性と自然さが理解できなかった。また、キーを離すと自動で中立に戻るという方法があることも知らなかったのだ。キーボード操作時に各舵の舵角を表示するインジケータがないのもマイナス。

意味のない客室視点

発案が生かせてないといえばこれだ。ただ、客室の視点を作れば宣伝文句にも書けるからいいんじゃないか? という程度にただ内装のポリゴンがドカドカと置いてあり、自分は誰もいないキャビンにただ一人取り残され、窓から景色を見るだけである。そこには「客室の視点を楽しむ」という制作者の意図がまったく感じられない。たしかに乗客という立場はゲーム性とは無関係である。それを自覚するからこそ、客室の演出をめいいっぱい盛り込み、プレイヤーを楽しませるべきではないのか。「ないよりマシだろ?」は許されない。言い訳するならないほうがマシだ。そのエネルギーをもっと完成度を上げるために使ってほしかったのだ。

当たり判定のないオブジェクト

依然としてこれは再現されていない。あってしかるべきオブジェクトの当たり判定は銀翼(銀翼だけではなくジェットストリームすべて)では省略されている。同様にX-Planeもオブジェクトに当たり判定がない。が、X-Planeは空力シミュレータであり、ぶつかったらおしまい、というようなゲーム的要素は極力省くというポリシーの元に制作されている。はて、この銀翼は一体どのようなポリシーに基づいてオブジェクトの当たり判定を省略しているのであろうか。アクアシステムの開発力を見ればいたしかたないということか。

ナビゲーション機能なし

現実のナビゲーション機能はILSしか再現されていない。いや、説明がないのでおそらくそうなのだろう。エンルートでのナビゲーションは独自の簡易なものが用意されている。いままでのジェットストリームと同じだ。この、「ナビゲーションはシミュレートしなくてもよい」的なアクアシステムの態度は一体いつまで続くのだろう。アクアシステムとしては、初心者向けだから簡単でよい、という考えがあるのであろうが、シミュレーションゲームを買い求める初心者は、現実のシステムを扱うことが簡単にできるようになりたいのであって、シミュレーションゲームにおいてはメーカーが用意した架空のシステムを扱えるようになってもちっとも楽しくないということに早く気づくべきだ。

衛星写真を使えばそれでいいのか

最大の特長の一つである衛星写真のシーナリであるが、俺様の知っている地域を飛べないのでVFRとして有効であるかどうか不明である。特に細かいオブジェクトは見当たらなかったので、現時点では日本の雰囲気しか再現していないとしか言えない。衛星写真を使い、よりリアルな日本の風景を再現するのであれば、VFRの指標となる山や川、交通網や建造物などがわかるようにするべきであろう。もちろん彼らの頭の中にVFRの文字などあるはずがない。ただ、「衛星写真をべたべた貼っちゃえばカンタンにリアルっぽくなっちゃうジャン」という程度の考えしかなく、その特徴を生かす方法など考えようともしなかったのだ。



余談だが、エンジンなどの切れ目のないはずの効果音が、一定の時間でループしているのがはっきりくっきりわかってしまうのも勘弁して欲しい。不気味なメロディとなって聞こえて気持ち悪い。それでもジェットストリーム3のころよりマシになったんだが、前のはひどすぎた。スロットルを上げると、ウォン・・・ウォン・・・ウォン・・・と甲高い唸り声を上げ、スロットルを絞るとヴォォォン・・・・・・ヴォォォン・・・・・・だ。熊本にはヘッドホンが売ってないのだろうか。



全体に、あらゆる面でフィーチャーが生かされておらず全体に希薄な内容、ただ思いついたから適当に作ってみたという印象しか浮かばない。洋ゲーのように細部までもっと作りこめとか精密なフライトモデルなどを要求しているわけではない。簡素なら簡素なりのよさがあり、伝えたい楽しさがあれば簡素なものでもそのように作れるはずだ。が、それ以前の問題なのだ。おそらく社内に企画やプログラムなどの分業の概念がなく、FSどころかPCゲームもよく知らないリードプログラマーが思いつきのままプログラムを書き、3Dモデルやビットマップが必要になったらその都度担当者に要求する・・・制作現場はおそらくこのようなものだろう。なにもかも思いつきのままで、あらゆる意味で発想が生かせておらず、完全に企画というプロセスが存在しないのだ。





購入の判断材料にならない体験版の仕様

この体験版の仕様もかなり疑問である。まず、最初に疑問に思ったのはジョイスティックが使えないことである。フライトゲームにおいて重要なフライトモデルはなぜ体験できないのだろうか。フライトモデルの出来の悪さがばれてしまうからであろうか。体験版で自由に飛ばせるのが気に入らない? しかしキーボードでは自由に飛ばせる。では、ジョイスティックが使えないのは単なる嫌がらせか? ゲームコントローラとの相性は確認できないのか? さらに、おかしいと思うのは、何が制限されているのか、製品では何ができるのかがよくわからないところだ。起動させるといきなりプッシュバックからはじまり、機能メニューのようなものは見当たらない。エスケープキーを押すとどうでもいいアイコンが4つ表示される。ALTキーを押してもプルダウンメニューは出てこないし、マウスも反応しない。製品版もこんな低機能なのだろうか。そんなはずはあるまい。おそらく大部分の機能を削り、できることのほうが少なくなっているのだ。もちろんどんなメニューがあるのか体験なんかできない。いきなりコクピットから始まり二つの空港を一方の方向に飛ぶことしかできないのに、なんと立派なことに時間制限までつけてある。時間制限をつけるならフル機能が使えるように、機能の制限をするなら時間制限など要らないであろう。ご存知X-Planeは5分間の時間制限でフル機能が利用できる。また、試用時間をすぎても手動操縦ができなくなるだけで、豊富な機能をこころゆくまで評価できるようになっている。消費者はこうしてX-Planeがいかに充実した製品かを体験し、購入にいたるのである。この銀翼の何も体験できない体験版は、体験版ではなく、ただの「出し惜しみ」にすぎないのだ。機能の全貌を見せてしまえばいかに希薄な製品であるかがバレてしまうのでこのような措置としたのであろうが、希薄な製品の機能を制限してもよい結果を招かないのは明白である。つまりアクアシステムの担当はこの明白な事実すら予見できないのだ。(体験版にせず、動作確認用のムービーデモとでも言っておけばよかったものを。) 体験版の存在理由をはじめから考え直すがよい。おっと、この様子でははじめから考え直すべきことが多すぎてしまうな。

購入の際の指針となりえないこの体験版で何を体験すればよいのであろうか。いかにダメ製品であるかということだけはしっかり体験できてしまうのだが、この希薄な体験版であればはじめから買おうとしている人は考えを変えることもできないであろうし、何も知らずに見た人はあまりの内容のなさに意見のしようもないであろう。「体験版だから、製品版はもっとよいのだろう」と期待を寄せる無知で愚鈍な多くの消費者どもに忠告する。いまだかつてこの期待に応えた製品は一つもないのだ。

アクアシステム内の掲示板は純粋で無垢な消費者による銀翼への賞賛の言葉で埋め尽くされている。彼らのほとんどはPCゲーム、いや、コンシューマ含むあらゆるゲームソフトとはどのようなものなのか、標準的な品質とはどの程度ものなのかまったく知らず、この狭い飛行機ゲームというジャンルの中だけで生きている井の中の蛙である。メーカーのうわべだけの製品紹介に胸を膨らませ、銀翼という甘い言葉の響きに根拠のない期待をめぐらせ、それはいつしかゆるぎない確信となる。そして実際にこのような製品を手にしても夢から覚めなくなっているのだ。アクアシステムはこうした歪んだ意見を鵜呑みにし、信者からのみ意見を吸い上げ、もはや騙された初心者どもの賞賛の声だけしか目に入らなくなっている。こうして駄作シリーズが正当化され6本目の自慰製品が堂々とリリースされたわけだ。

PCゲームの国内市場規模を考えると、まっとうな製品作りは難しいのかもしれないが、それは完成度の低さの理由とはならないし、客にこの程度で我慢しろというのは愚の骨頂だ。その反面、まっとうな製品作りで成功を収めている会社もあることを忘れてはならない。国内ではふつうのPCゲームメーカーよりエロゲーメーカーのほうがまっとうな製品開発を行っているような気がするのだが、気のせいだろうか。まあ絶対数が違うんだが。

自分がこれはいいだろうと期待して買った製品がダメなのを認めたくない気持ちはわかるが、やはりダメな製品は勇気をもって怒らないとダメだ。客もメーカーも早く目を覚ませ。





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