Jet Stream 5 (Aqua System)

ジェットストリーム5 ジェットストリームフィフス

RATE: よくできた同人ソフト
プレイ時間: 2時間程度




Jet Stream 5 は、アクアシステム社のフライトシミュレータ、ジェットストリームシリーズのバージョン5である。いままでの経緯を見てみると

Jet Stream     DOS版であったらしい。
Jet Stream 2   Win版になったらしい。
Jet Stream 3   機種や空港を追加したらしい。
Jet Stream DX  3Dアクセラレーション専用とした。
Jet Stream 5   音声認識対応とした。
銀翼         地形テクスチャを衛星写真とした。コクピットを3Dとした。

と、このようになる。この Jet Stream 5 のあとに名称を変更した銀翼が発売されたので、現行製品の一つ前のバージョンということができる。すでに3とDXは評価済みであるので、いかに前作より進化したか、また、どの部分が銀翼への布石となったかを見ていこうと思う。(いつものことなのでおわかりかと思うが、要素の少なすぎるこのソフト、3から5まで何も変わっていない。本当に何も、見事なくらいにまったく進化してない。このようなソフトを評価するのは、少し気恥ずかしさを覚えるくらいだ。)






2つのエラー。6つのメインメニュー。

インストール終了後、ソフトを起動すると、エラーダイアログが続けて二つ表示される。これは音声認識ソフトをインストールしなかったためと思われるが、インストール時に音声認識ソフトをインストールしないというオプションがあるにもかかわらず、このエラー処理をしていないのは問題だ。タイトル画面では、フリーフライト、ログフライト、イベントフライト、リプレイ、コンフィグ、プラン作成、の6つのメニューが表示される。

フリーフライトは、空港や機種、時間などを自由に設定して飛行するモード。

ログフライトは、まずパイロット名を登録し、飛行するたびに飛行時間や距離が記録されるモード。飛行時間が増えることによって、なにかが変わったりイベントが起こるなどは不明。フリーフライトとの違いは、記録されるかどうかだけのようだ。

イベントフライトは、マイクロソフトフライトシミュレータにあるシチュエーション機能と似ており、セーブしておいた任意の位置からのフライトを行う。あらかじめいくつかのシチュエーションが用意されているが、○○空港への着陸 (着陸の練習用か) とか、他機との近接状態 (おそらく他機のオブジェクトの観賞用) というものばかりだ。名前がイベントフライトだからといって、イベントが起こることを期待してはいけない。

リプレイは推して知るべし、自分のフライトの様子を再生することができる。それだけならありがちなのだが、目に留まるのは「スクリーンセーバー」ボタン。おおぅ、これを押すとPCのスクリーンセーバーの代わりに自分のリプレイが表示されるのか! と思いきや、ただリプレイを繰り返し再生するだけ。あまりの安直さに卒倒しそうになった。音を切るというデリカシーすらない。

プラン作成メニューでは、フライトプランの作成を行う。このフライトプランは実に単純なもので、出発空港と目的空港を指定し、途中のルート上に、航路の目安となるNAVマーカーを置いていく。コクピット画面にはこのNAVマーカーの方向が表示されるので、それをたどっていけばよい。このNAVマーカーは架空のシステムであり、地図上のどこにでも置くことができる。いくつか置けるようだが、目的空港にまっすぐ飛んでいけばいいので、通常は一つ置けば十分だろう。あまりにも自由すぎて根拠が感じられず、シミュレーションとしての説得力もない。ここでセーブしたフライトプランは、フリーフライト、ログフライトで使用するようになっている。





小学生の絵。おじさんの声。

俺様は3とDXをすでに持っており、今回この5を入手したのだが、インストールしてみて正直なところ驚いた。「3と全く同じじゃないか?」日頃ゲームは見た目だけで判断するなと力説している俺様だが、初心者にも簡単にプレイできるとアピールしているゲームソフトなら、美しい画面も商業的に重要な要素となるはずだ。だが、俺様の目の前に出てきたのは、3かDXか、見分けのつかないような景色だった。オブジェクトはテクスチャが張ってないばかりか、どうも前作との違いがわからない。使い回しなのか、それともモデラーのセンスが悪くて似たようなものしか作れなかったのだろうか。すべてのオブジェクトにテクスチャはなく、機体のペイントはポリゴンで表現しているようだ。

上空に上がると、フォグがかなりきつく、風景はごく近距離のものしか見えない。調整するオプションもないようだ。近距離の山すら見えないので、地形の把握は困難。3Dアクセラレーションなしの描画の方がフォグが弱く、印象がいいくらいだ。地表のテクスチャは一応航空写真をベースにしているようだが、澄みきった空、青々とした山々、真っ青な海など色彩センスがまるで小学生のようで、リアルとはとても言い難い。

コクピットパネルのビットマップも印象の悪さに拍車をかけている。プライマリディスプレイくらいはまともに動作しているようだが、全体に情報量が少なく、スカスカしている。機種によってはアナログ計器も備えているのだが、プライマリディスプレイと同じ高度や速度をアナログで表示しているだけなので、根本的な要素が少ないことがわかる。もうひとつのディスプレイは、架空のNAVシステムを表示している。空港の位置も表示しているので、パイロットとして最も基本的な、現在位置の把握に気を使う必要がない。パネルのビットマップの出来も悪く、やたら空白ばかりだったり、動かない計器ばかりが目立っている。絵的センスは主観の問題だが、それ以前に、情報量の少なさばかりが目立つレイアウトで失敗している。コクピット視界は真正面と真横(左右)の3方向しかなく、風景が見にくいだけでなく操縦もしにくい。

メニュー画面などの2Dビットマップにもセンスの悪さが光っている。どこが押せるのか押せないのか、何をどういう順で処理すればいいのか直感的にわかりにくく、制作者がインターフェースの設計を意識していないことがうかがえる。絵のセンスが悪いなどという話はもはや無駄だろう。

解像度は1024*768ドットまで対応しているのだが、おおざっぱなオブジェクト、フォグで見えない地形、情報量の少なすぎるコクピットでは、解像度をあげてもまったく意味がない。唯一評価できるのは、3Dアクセラレーションなしでも使用できることだろう。

起動したとき、絵と同時にショックを受けるのが音声だ。いや、ヘボヘボグラフィックのゲームはありがちなので、むしろこの音声の方が鮮烈だった。操縦操作にあわせて、パイロットが「V1!」とか「ギアアップ!」とかコールしてくれるのだが、この声があまりにも工夫がなさすぎて、まるで気のいい田舎のおじさんがちょっと照れくさそうにマイクの前でしゃべっている、そんな様子が手に取るようにわかってしまう。会社の静かな時間を見計らって社内スタッフにしゃべらせたのだろう。サウンドのスタッフが不在なせいか、この録音した音声を何の加工もせずそのまんま使ってしまったようだ。コールの他に簡単なATCもしゃべってくれるのだが、イントネーションから察するに、ATCの内容を理解していないらしい。一生懸命しゃべって盛り上げようとしてくれているのはわかるのだが、所詮プレイヤーの意思は介入できないBGM程度のものであるし、この声では萎えてしまう。





シミュレーションとして。ゲームとして。

フライトシミュレーションはゲームではない・・・これはフライトシミュレータがブームになるずっと以前から言われてきたことだ。フライシミュレータは純粋に飛行機の挙動や操縦の再現のツールとして存在し、ユーザーはそれに価値を見いだし各々の目的 (ライセンス取得ための訓練、航空力学に対する興味など) に合わせてそのツールを使用する。ではこの Jet Stream 5 のシミュレーションとしてはできはどうか見てみよう。

現実とまったく異なるナビゲーションシステム、現実にはないHUD、省略されすぎのコクピット (HUDの使用が前提になっているようだ)、空中で動作してしまうスラストリバース、オブジェクトの当たり判定なし、高度計表示は気圧高度ではなく地表からの高度 (水平飛行していても山があるとその分高度表示が下がってしまう)、プレイヤーの意思を介在できないATC、晴天しかない天候、タワーから風向や風力なども言われるがおそらく風すら吹いていないだろう・・・現実世界での出来事は極めて多様で、すべてを再現することは不可能だ。そこに取捨選択が生まれるのだが、はて、このソフトでは、何を再現しようとし、何を省略しようとしたのだろうか。全体的に、現実の事象を忠実に再現しようという意図すら感じられない。良いところを強いて挙げるなら、失速の表現だけは前作より進化している。前作では極端に速度を落としてもなんとか飛び続けられたが、今回はバタバタという音とともにはっきりと落下しているのが感じられた。

シミュレーションと言えども、純粋なシミュレーションで成立しているのはX-Planeくらいしかない。ゲームソフトとして流通し、より多くの市場を狙うならエンターテインメント性も重視される。ではこのエンターテインメント性はどうか。美しくもないグラフィック、素人丸出しの音声、クラッシュ表現なし (ハードランディングなどすると画面が切り替わって終了してしまう)、ポーズ中にマウスカーソルをオブジェクト (航空機や観光名所) にあわせると、そのオブジェクトの説明が出てくるのだが、これがあまりにも簡単すぎて、ワンポイント知識にもならないし旅情をそそることもない。ログフライトやイベントフライトは名ばかりで、なんのイベントも起こらない。

優れたシミュレーションエンジンをゲーム的に楽しませてくれるわけでもないし、シミュレーションとして貧相でも楽しく遊ばせてくれる工夫があるわけでもない。これでは製品内容が希薄であるとしか言いようがない。





プレイヤーの考えること。実行すること。

とにかく、プレイヤーの考えること、やるべきことが極端に少ない。このゲームのプレイ形態を一つ紹介しよう。まず、フライトプランを作成する。フライトプランと言っても、出発空港と到着空港を選び、途中に、NAVポイントと呼ばれる航路の目安となる中間点マーカーを置くだけだ。このNAVポイントはまったく架空のもので、地図上のどこにおいてもかまわない。10個ほど置けるようだが、通常は、到着空港のところにひとつポンと置けば足りるだろう。次にフリーフライトモードかログフライトモードを選び、先ほど選択したフライトプランを選択、機種を選択、時刻などの設定をする。完了を押すと滑走路に出るので、おもむろにスロットルを最大にする。何も考えず操縦桿を引けば失敗なく離陸する。次にPキーでオートパイロットをONにし、Jキーで次のNAVポイントまで一瞬でジャンプだ。もちろんオートパイロットを使わず自分で操縦してもいい・・・だが、何もすることがなさすぎ、ただ呆然とジョイスティックを握っているだけの自分に気づくとばかばかしくなってしまうだろう。最後のNAVポイントに到着したら、目的の空港が見えていると思うので、適当に着陸しよう。この着陸だけはほんの少しだけチャレンジングで楽しめるかもしれない。舗装路内なら雑に降りても大丈夫なので難しくない。好きなところで停止すれば、さっきのおじさんが「オツカレサマ!」としゃべってくれるのでこれでおしまいだ。

フライトモデルは簡単すぎて、操縦テクニックなどは特に必要ない。初めてプレイする初心者にとって着陸は少し楽しいだろうが、すぐに慣れてしまうだろう。架空のナビゲーションは、自由すぎるゆえにまったく必然性のないものになっている。現実の操縦やナビゲーションがどんなものか知識欲を満たすこともできない。もちろん、ATCなどの交通ルール、敵や味方などのAIとのやりとりもない。○○だから○○したほうがいいだろう、などと判断する局面もない。何の困難も起こらないのでプレイヤーは何も判断するところがなく、従って目的地に到着しても達成感がない。風景でも鑑賞できるのかと思えば、鑑賞に堪える風景でもないし、鑑賞できるような視界切り替えもない。

このソフトは、開発者たちがフライトシミュレータの面白さをどのように感じ、自分たちがフライトシミュレータの良さをどう表現し、エンドユーザーに対してどういう面白さを感じて欲しいのかが、まったく伝わってこない。3作目からまったく変化のない内容、初心者すら魅力を感じないであろうグラフィック。PCゲーム市場のいったい誰が欲しているのかわからない希薄な内容。そこには企画意図など存在しない。まるで、とりあえず3Dグラフィックスエンジンができたので飛行機でも動かしてみるか、といった、あたかも同人ソフトような臭いさえ感じられる。





正しい商品説明とは。商品の価値とは。

くだらない機能をイベントフライトやスクリーンセーバー機能などと呼び、いかにもな名前で期待させようという気持ちは分かるが、中身が伴っていなければユーザーに対する詐称とも受け取られる。メーカーの製品紹介ページには、リアルな空だとか、ATC交信だとかの文字が並ぶが、実際の製品とひとつひとつ見比べれば、こまかい詐称の積み重ねと言われても仕方ないだろう。(具体例を挙げる必要はあるだろうか? 「新たに書き起こしたパネル」は、どう変わっているのかわからない、ATCはただのBGM、低空の雲、タイヤの煙、管制塔視点・・・これらは新製品の特長としてふさわしいだろうか。)

それでも、パソコンを買ったばかりでPCゲームなどまったく知らない初心者や、フライトシミュレータというものを一度体験してみたい、という輩には需要があるらしく、廉価版などはそれなりの販売実績があるらしい。だが勘違いしてはいけない。彼らは「ジェットストリーム」に魅力を感じているのではなく、「フライトシミュレータというジャンル」と、「低価格である」(そしておそらく「やさしい」も) という価値に魅力を感じ、金を払っているのだ。新バージョンの銀翼では視覚効果を向上したようだが、そもそも、遊びや、楽しみ、シミュレーションとはいったい何であるのかを知らなければ、今後とも同社からまともな製品が出ることはないであろう。充足感は技術によってもたらされるものではないのだ。



なお、今回は音声認識システムを評価していない。個人的に興味がないばかりでなく、音声認識を使用するとどのように面白くなるか、容易に想像できたからだ。音声認識を使わないと製品として成立しない、というものでもあるまい。従って、音声認識部分は付け足しのオマケとして考え、シミュレーションゲームとして如何に優れているかという点において評価した。




参考。Jet Stream DX の評価銀翼の評価




 

 

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